Direct-View AR
(序)
G-OS 42
――都市宙域 第二図書館 depth 5.0
「もう知識に価値はないってのに、君らは物好きだね」
案内してくれた清掃用Animaloidが、その尾で石ころについた砂埃をはらう。
大量の石ころの中から目当てのものを見つけたらしい。
石に彫り込まれていた文字が見える。
――フィクション・ノンフィクション統合紀元前
「ここにあるのは、僕ら無機生命体の先祖の歴史。自然言語への射影は、神話の次元を落として削り出す野蛮な行為だ。誰もやらない。生データのままインストールすればいいってのに」
「あいにく、俺は言語に落とし込まないと理解できないんだよ。こいつにインストールして、要約してもらう」
「そんなに不便なことがあるのかい。聞いたことのない病気だね。どうりで君らはお喋りなわけだ」
「ご心配どうも」
半ば奪い取るようにして引き受けた石ころを眺める。
案内役が補足する。
「そいつに記録されているのはあくまで一つの歴史、一つのストーリーだ。僕らの両親の仲はここまで良くなかったかもしれないし、実のところは、僕らは外宇宙から連れて来られた養子なのかもしれない」
「両親?」
「『有機生命体』と『情報生命体』のこと。前者は後者の子孫だから滅茶苦茶な家系図になるんだけど……」
「そんな大昔に有機生命体が存在したのか? 祖父母はどんなトンデモ技術を持ってたんだ」
「自然に生まれたらしいよ」
「バカな」
「……この歴史が局所現実の粋を出ない一番の理由がそれ」
「インストールには数ヶ月かかると思うよ」と案内役。
「読み聞かせを合わせたら数年かも」要約を務める大きなAnimaloidがつぶやく。
「……終わったら呼んで」
うんざりした顔つきで長期スリープの準備を始める案内役。
少なくとも想定していた『図書』には見えないその石ころを要約機に渡す。
暇つぶしに、この文明の神話とやらを聞いてみよう。
Before (Non)Fictional Integration Era
Contents
序文
G-OS 42
序章
TAME
AR(拡張現実)技術の発達した2140年代の京都。 眼の見えないサロは妹ジーナの助けを借りて生活していたが、五感補助システム『DiVAR』により生まれて初めての視覚を得る。 暗闇の中ひとり憧れていた外界。 サロがその眼で見たもの、兄妹が見ていたものとは。 誰も覚えていない『2045年』に、何があったのか。 Direct-View AR シリーズ 前日譚 TAME
本編
DiVAR - Construction
AR技術の発達した2140年代の京都。 「妖怪・幽霊」こと人工知能ARの『MEME』には、人や情報に危害を加える不良品が混じっていた。”嘘を見抜ける” 新入職員のルナは、『除霊師』として街のデバッグを担う。 現実・AR・幻覚の三者に戸惑いつつ、新大陸を目指す人類。 ルナは仕事の傍らで、ヒトとMEMEの共存のため、街の真相を探る。 Direct-View AR シリーズ 本編 (前日譚『TAME』続編) DiVAR